自由の国、アメリカ。
そのお国柄を象徴するかのように、この新大陸では蒸気機関車すら百花繚乱。
路線や運用ごとに多様な蒸気機関車が製造され、伝説が生まれた。
大地を蹴り飛んでゆく流線型機関車から、気を吐き眉を揚ぐ重装備山岳機まで。
20世紀の世界の中心を明に暗に支え続けた黒鉄の巨人たち、その憧憬を今追い求める。
Virginia
バージニア州
Oct 2025 / Goshen, VA / Victoria Scenic Railway - Shenandoah Valley Limited
20世紀前半からの流線型ブームにあって、アメリカの各鉄道では競って流線型の蒸気機関車が建造された。
その最終形態であるNorfolk & WesternのJ型機関車、611号が今もなお鉄道博物館で動態保存されている。
これまでにも時折本線に出てきた611号だが、2025年の秋にはVictoria Scenic Railwayに戻ってくるということで、私はワシントン空港に着くやいなやレンタカーを3時間走らせて始発駅Goshenを目指した。
Oct 2025 / Goshen, VA / Victoria Scenic Railway - Shenandoah Valley Limited
N&Wの機関車たちを有名にした立役者といえば、写真家O. Winston Linkだろう。
ストロボを使った大胆かつ緻密な氏の夜間撮影に敬意を払いつつ、私も夜のGoshen駅での整備風景の撮影に臨んだ。
(流石に光源はストロボではなく、整備用の照明である)
Maryland
メリーランド州
Oct 2025 / Cumberland, MD / Western Maryland Scenic Railroad
N&W Class Jと対極をなすであろう機関車が、200km先のメリーランド州カンバーランドで保存されている。
Chesapeake & Ohio鉄道の1309号機。
山岳線の石炭列車牽引用に製造されたというマレー式の巨体は、その複雑な足回りもさることながら、前面の煙室扉脇に装備された二組の多段コンプレッサが実に厳しく、山男の風格を醸している。
数あるアメリカの保存蒸気機関車の中でも、もっとも私が興味を惹かれた1両だった。
この機関車はぜひ夜間撮影したいと願っていたが、折よく今回の訪問では "Sunset on the Mountain" と称される日没時の運転に立ち会うことができた。
ただ、カンバーランドの郊外は街灯すらなく、走行写真は全て闇の中にドボン、かろうじて駅や踏切で何枚かそれらしいカットを得たのみであったが……。
Oct 2025 / Cumberland, MD / Western Maryland Scenic Railroad
Pennsylvania
ペンシルバニア州
Oct 2025 / Strasburg, PA / Strasburg Rail Road
フィラデルフィアからも程近いStrasburg鉄道は、平日を含めて全ての旅客列車を蒸汽牽引で走らせている。
全米広しと雖も、客車や沿線風景、機関車の整備体制を含めてこれだけ完璧に1世紀前の光景を残している鉄道は他にないだろう。
この鉄道で動態保存されている蒸気機関車は何両かあるが、訪問日の登板は90号機。
Great Western鉄道出身のデカポッドで、いかにもアメリカの汎用機という好ましい見た目をしている。
高校生の頃に中国の上游型機関車と出会い人生を変えられた者にとって、その遠い祖先にあたるアメリカ型の貨物機は、いつか訪れなければならない被写体だったのかもしれない。
Oct 2025 / Strasburg, PA / Strasburg Rail Road
平日でも4往復の列車が設定されているうえに、予約制の車庫・整備見学ツアーも設定されており、スナップの捗る路線である。
機関士や整備士たちが、昔ながらのオーバーオールスタイルなのも嬉しい。おそらく意図的にそういう服をチョイスしてくれているのだろう。アメリカの保存鉄道の雄としての誇りを感じる。
出庫していく90号機の横では、Canadian National Railway出身のモーガル89号機が整備を受けていた。
出自には関係のない両機だが、偶然にも番号が連番になっているのが面白い。
寄せ集めの機関車で運営している地方鉄道といった趣がある。
Oct 2025 / Hollidaysburg, PA / Everett Railroad
Oct 2025 / Rockhill, PA / East Broad Top Railroad
ペンシルバニア州をはじめとしたアメリカ北東部は保存鉄道の密度が高い。
Strasburg鉄道とWestern Maryland鉄道の中間くらいの位置にも、2箇所の蒸汽保存鉄道がある。
Everett Railroadの11号機は、2025年の渡航で出会った唯一のALCO (American Locomotive Company) 製造機だった。
どこか日本のC56を彷彿とさせる、軽快なスタイルの愛らしいモーガル機である。
この鉄道は1時間ほどしか滞在することができず、乗車券やグッズを買う時間もなかったのだが、それでも鉄道員は駅の停車中に私に客車の室内を見学させてくれたりと、大変親切にしていただいた。
East Broad Top Railroadは、蒸汽列車の運転時刻には間に合わなかったが、ご厚意で整備庫を撮影させていただいた。
総じてアメリカの保存鉄道の鉄道員の方々は、遠く東洋から馳せ参じた正体不明の撮影者に対しても、大変優しく接してくださった。
聞くところによれば、アメリカ全土では今も150両ほどの蒸気機関車が動態保存されているという。
2025年の旅で出会ったのは、そのうちたったの6両。
私は魅惑の大陸の、ほんの入り口に立ったばかりなのだと思うと、心が弾むではないか。