いまや世界第一の人口を擁する国家にして、世界有数の鉄道大国、インド。
過密な都市鉄道だけでなく、地方鉄道や路面電車、狭軌鉄道に近々開業が予定される高速鉄道まで、被写体の多さの割に、日本の海外鉄道趣味者のなかでは今ひとつポピュラーではないこともまた事実。
カオスの国への敬遠か、お腹の調子への心配か。このページがインド鉄道趣味者の増加に一役買えば幸いである。
Mar 2024 / ニューデリー・ヤムナー川鉄橋
May 2017 / コルカタ・フーグリー川鉄橋
さて、インドの鉄道と言って真っ先に思い浮かべられるのは、1枚目のような国電ではないだろうか。
日本の国鉄103系を横に引き伸ばしたようは顔立ちは、日本人撮り鉄には猛烈な違和感をもたらす。
正面3枚窓の車両もいたり、側面窓も小窓と大窓があったりなど、製造時期により形態はかなり豊富である。
車内は3+3人掛けのクロスシートで、乗降扉は常に開放。暑い時期など、身を乗り出して涼を取る乗客も少なくない。
Mar 2024 / ニューデリー・Delhi Junction付近
ムンバイなど一部の都市では通勤電車が派手な塗装に塗り替えられていたり、また中距離電車 (MEMU) を中心に新車導入が進んでいたりもする。それでも、首都ニューデリーをはじめ各都市で、渋いツートンカラーの電車がまだまだ現役であることは喜ばしい。
派手好きなインド人がこの塗装の電車を長年守り抜いていることは、意外ですらある。
Mar 2024 / ニューデリー・ヤムナー川鉄橋、ネアラ駅付近
電車に比べると、機関車の方はだいぶ日本人にも親近感の湧く表情の車両がいる。
特にこのWAG-5型などは、どこかEF58やEH10に通ずる雰囲気がある。ブタ鼻ライトや物々しいジャンパも好ましい。
インドの初期の電気機関車には日本製のものもあるので、そのDNAが受け継がれているのかもしれない。
新しい機関車はというと、どの形式もスラント・ノーズの似たり寄ったりな顔で、なんとなくのっぺりしており、少し趣味的な面白さには欠ける。
下の写真に写っているWAP-7型だけでも、製造量数は約2000両にのぼるという。色違いのようなWAG-9型は6000両以上。日本とは文字通り桁が違う。
それでも、長編成の客車を従えて驀進する姿は鉄道王国の風格を感じさせるものがある。
Mar 2017 / マドゥライ駅ほか
機関車にせよ客車にせよ、広軌の列車はとにかくデカい。
普通車の車内は本邦のB寝台車のような座席配置だが、そこに5人も6人も詰めて座ってしまう。さらに通路を挟んで1人掛け座席がある。
この車体サイズでも乗り切れず、普通車はいつ見ても網棚に座る人がいるのだから、恐ろしい国である。
762mmゲージの客車などは、広軌の貨車にそのまま載せることができてしまう。
Mar 2017 / Pamban Bridge
インド南東部マドゥライからさらにスリランカの方に向かったところに、海を渡り離島に繋がる大鉄橋があった。
名をパーンバン橋という。
ターコイズブルーの海面すれすれに架けられた橋梁、錆だらけの可動橋、風に吹かれて徐行する客車列車。
現世離れした光景に見惚れるばかりでだった。
Dec 2024 / コルカタトラム
コルカタには、アジア最古の路面電車が今も残る。
モータの音も高らかに人と車を掻き分けて進むその姿は、インド的混沌の真髄を感じさせる。乗っても撮っても実に楽しい。
ただ、2025年時点で現役の路線は2路線のみ。運行頻度は低下するばかりで、いつ全廃になってもおかしくはない。
Feb 2019 / Gwalior狭軌鉄道
狭軌鉄道は、かつてはインドの全土に張り巡らされていたが、2020年頃を境に一気に淘汰されてしまった。
今は世界遺産に指定されたダージリンやニルギリあたり、あるいは観光化された鉄道を除けば、地域輸送に徹する路線はほとんどない。
グワリオールの軽便鉄道は、インドでも最末期まで残った610mmゲージのひとつで、更には日常的に「屋根乗り」が見られる最後の路線でもあった。
本線の巨大な車両とは異なる、人の背丈とさほど変わらない車両に乗客がすずなりになっている様子に魅せられた。
Feb 2024 / バングラデシュの屋根乗り列車
余談だが、インターネット上で「インドの鉄道」として出回っている屋根乗り画像の多くは、実際はバングラデシュの鉄道のものである。
グワリオール軽便鉄道なき今、インドでは (少なくとも日常的には) 屋根乗りの光景を拝める場所はないはずである。ご存知の方がいらっしゃれば、筆者にこっそり教えていただきたい。
Feb 2019 / Nagpur狭軌鉄道
Mar 2019 / Karjan狭軌鉄道
2019年時点で最も規模の大きい狭軌鉄道は、NagpurからNagbhirまで伸びる路線で、ずんぐりむっくりのZDM4A型機関車が堂々10両の客車を牽引して行き交っていた。
渋い臙脂色の機関車の他、インド国旗の色に塗られたZDM4A型も見かけた。
ムンバイにほど近いKarjanの軽便鉄道は、駅舎の雰囲気や可愛らしい腕木信号などを含めて、前世紀から刻が止まったままのようであった。
訪問したいずれの狭軌鉄道も素晴らしく、2019年に訪れた際には再訪を誓ったが、その後コロナ禍で訪問できないうちに、どの路線もあっけなく広軌へ改造されてしまった。
Feb 2019 / Bhakra Dam専用線
Feb 2019 / Shakuntala狭軌鉄道
その他にインドで興味深い鉄道というと、ダムへの専用線や、Shakuntala Railwayと呼ばれる狭軌鉄道だろうか。
バクラ・ダムへの専用線で活躍してる凸型機関車は、米軍(進駐軍)が日本に持ち込んだDD12型機関車とほぼ同型のGE44トン型機関車である。
この他にも松葉スポークの車輪を履いた客車など、インドの国鉄本線とは全く異なる車両群が生き残っていた。
ダム近傍は立入制限があるが、始発駅側のNangalでは自由に撮影させてもらうことができた。
Shakuntala Railwayは、2019年の訪問当時、インド唯一の私有鉄道だったらしい。
運転室に招いてくれる機関士や、列車を停めて道端の屋台でチャイを奢ってくれる車掌がいるかと思えば、カメラを取り出しただけで怒る駅員もいて、国鉄以上にカオスな撮影体験となった。
残念なことに、この路線も2020年から広軌化工事が始まっている模様である。
Dec 2024 / デリー郊外
いちど訪れて帰ってきた時には「もういいや」と思いつつ、暫くするとまた訪れたくなるのがインドという国。
7万キロの大鉄道網のどこかに、未だ見ぬ鉄道情景があると信じて……。