アジア諸国を見ても、蒸気機関車が毎日稼働している路線は、もはや片手で数えられるほどになってしまった。
そのうち実に2路線がインドにある。世界遺産にも登録されている、ダージリンとニルギリである。
そして首都デリー郊外には、蒸気機関車の動態保存を手掛ける博物館まである。
前へ前へと鼻息荒く経済発展していくインドであるが、同時に意外にもこういった過去の遺産 - 蒸気機関車の保存に熱心な側面もあり、趣味人としては嬉しい限りである。
(インドの蒸気機関車以外の撮影記録は こちら / India - Others )
Rewari
レワリ機関区
Feb 2024 / レワリ機関区
インドを代表する蒸気機関車といえば、やはり流線型のWP型であろう。
第二次世界大戦後に多数製造された急客機で、インド各地の花形運用に就いていた。
製造時期・メーカーによる差異 (ボックス動輪とスポーク動輪の混在さえ見られる) に加えて、所属する機関区や時期による装飾・塗装のデザインも異なり、その形態はまさに千差万別である。
首都ニューデリーから南西に70kmほど下ったレワリ機関庫 (Rewari Heritage Steam Loco Shed) ではWP型が保存されており、特にこの7000号機は動態保存されているということで、火を入れて構内を運転してもらった。
砲丸型の煙室扉が、ともすれば秘密結社のマークのような飾り帯が、そしてインドらしい緑・黄・赤の色差しが、青空の下でよく映える。
Feb 2024 / レワリ機関区
機関庫の構内だけの短距離運転とはいえ、やはり煙を吐いている蒸汽は良い。
磨き上げられて機関庫を出立していく花形機。
あるいは、半島を縦断する急客運用を無事に終え、寝ぐらに戻って一息つく瞬間。
いくら憧れようと届きはしないはずの半世紀前の鉄道情景が、眼前に一寸蘇った。
Darjeeling
ダージリン・ヒマラヤ鉄道


Dec 2024 / Darjeeling
世界遺産にも登録されているダージリン・ヒマラヤ鉄道は、インドのみならず、もしかしたらアジアで一番有名な蒸気機関車かもしれない。
既に多数のディーゼル機関車が導入されており、蒸気機関車は普段は短距離の観光客向け輸送にのみ従事している。
それでも道中には勾配区間あり、生活感溢れる路側軌道があり、まだまだ魅力は褪せない。
Dec 2024 / Darjeeling
ダージリン駅に併設された修繕庫は、訪れた時にはその現役の空気感に圧倒された。
12月になると、インドとはいえ標高の高いダージリンは冷え込む。夜になると、厚着をした有火番が時々出てきて、罐の火の具合を見る。ゴム板を革包丁で切って、現物合わせでガスケットを作っている。技師たちはカメラを持って闖入してくる私を咎めるでもなく、ゆったりと煙草を蒸している。
嗚呼、ここにはまだ、私の求める蒸汽のある景色が残っているのだと、いたく感激したものである。
Nilgiri
ニルギリ山岳鉄道
Dec 2024 / Nilgiri
同じく世界遺産のニルギリ山岳鉄道でも、蒸気機関車が1日に1往復だけ走っている。
並行する道路のバスの方が速度も本数も圧倒的なので、地元客の利用はなく、完全に観光鉄道である。
峠のCoonoor駅は、スイッチバック式かつ機関庫併設とあって、いくら滞在しても飽きない場所だった。
機関車の方も、油焚きのラック式蒸汽という変わり種。知名度もあり飄々とした印象のあるダージリンに比べて、ずんぐりむっくりとした、全体的に垢抜けないようなきらいがあり、それがまた良い。
あからさまな保存鉄道、観光鉄道というのは以前はあまり好きではなかったのだが、いつの間にか積極的に撮りに行くようになっていた。
もとより、形が残っていることがありがたい。廃線になり朽ちてしまえばそれまでである。
インドの鉄道員の方々には、どうかこれからも末長く罐の火を絶やさず守っていただきたいと願うばかりである。